苦痛除去のための安楽死は認められていない

わが国では、尊厳死とは異なり、安楽死は基本的に認められていません。

⇒尊厳死と安楽死の違い

安楽死は、判例上、一定の厳格な要件を満たす場合には違法性が阻却され犯罪とまではされないという取扱になっています。

そして、判例上、違法性が阻却されるための要件として、苦痛が見るに忍びない程度に甚だしいこと、耐え難い激しい苦痛に苦しんでいることなど、いわば死にも勝る苦痛があることが挙げられています。

 

ガンは痛みを伴わないケースの方が多い

苦痛、痛みを伴う病気として多くの方が思い浮かべるのは、やはりガンだと思われます。

読売新聞の記事で、ガンで痛みを伴うケースは36パーセントであったというものがあります。凡そ3分の1程度です。

17世紀頃の記録でも、病気で痛みを伴うケースは3分の1程度というものがあります。

これを多いと感じるか少なく感じるかは人それぞれだと思います。

ただ、逆に、3分の2程度の方は、そもそもガンになっても痛みは伴わないということもできます。

少なくとも、ガンになったら、皆が皆、痛みにのたうって亡くなっていくというものではないということになります。

 

ガンは、いわば、おできのようなものであり、それ自体が痛みをもたらすものではありません。

ただ、出来る部位や大きさによっては神経を圧迫したり、直接神経に触れて痛みを引き起こすことがあります。

それならば、そのような、3分の1の痛みを伴うタイプのガンになってしまったら、やはり安楽死が必要になってくるのでないかとも思えます。

 

ガンの痛みは除去できる

ですが、現在の医療では、ガンの痛みは除去できます。

ガンの痛みの大部分はモルヒネにより除去でき、モルヒネでも除去できないタイプの痛みは神経ブロックなどの方法で、やはり取り除くことができます。

モルヒネを使うと、痛みは除去できても中毒になるのではないかという心配もあるかと思います。

しかし、モルヒネには、有効限界がないという非常に変わった性質があります。

通常、薬は一定量以上使用すると治療のための作用より副作用の方が大きくなります。その境目が有効限界と呼ばれます。

ところが、モルヒネは、鎮痛剤として使う限りは副作用を生じないという性質があります。

私は、医療は当然専門外ですので、そのような性質について詳しく説明することはできませんが、お医者さんは、ガンの痛みは除去できると明言されています。

このため、ガンの痛みから免れるために安楽死をする必要、予め安楽死宣言書のようなものを作成する必要はないことになります。

むろん、痛みの除去の希望と無理な延命措置はとらないで欲しいという希望は矛盾するものではありませんから、リビングウィルにおいて、延命措置はしないで欲しいが、生存している間は苦痛の除去のための措置はしてほしいという意思表示をしておくことは当然可能です。

 

他の病気については議論の余地は否定できない

他方で、病気の中には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のような酷いものもあります。

この病気は、体全体が次第に麻痺していき、数年から十数年をかけて身体の機能を奪って最終的には死に至らしめる病気です。

このような病気になってしまったとき、幕を下ろしたいという心情は十分すぎるほど理解できます。

ただ、そのような症状から免れるための措置は、人為的に死期を早めるものとして現在認められていません。

この点、尊厳死のみならず、安楽死についても法整備の余地はあると考えます。

 

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