後の心配があるなら勇気を持って生前対策を

自分が認知症などで判断能力を失ったり亡くなった後に、残された家族が困らないようあらかじめ取り計らっておきたい。

日本では起こってほしくないことは想定しない、想定すると実現してしまうので想定してはならないという古来からの思想、いわゆる言霊思想が今なお残っていると言われます。

旅行へ行くのを楽しみにしている人に、当日雨が降るよと言って本当に降ると、何となく言った人が「私がつまらないことを言ったばかりに」と謝らなければならないような気がするのもその例といえます。

そのためか、自身が亡くなった後の家族のことを案じながらも何等の対処もしないまま亡くなられる方は少なくありません。そしてその結果、その心配は杞憂では終わってくれなかったというケースも散見されます。

 

自分の死後のことを想定するのは、家族が困る事態を想定するのは、死を願うものでも家族が困ることを願うものでもありません。

残された家族のことが真に心配であるのなら、想定したくない最悪の事態も想定して、あらかじめ対処をしておくべきです。後になって、起こってしまってから何とかならないかと言われても、どうにもならないことは少なくありません。

この生前対策の方法として、遺言、後見、信託、尊厳死宣言などがあります。

 

遺言書作成

遺言については知らないという方の方が少数と思われます。

自分の死後の財産の分配についてあらかじめ指示しておくものです。例えば、土地建物は奥さんが住み続けられるよう、奥さんに相続させる旨記載しておくなどです。

大きく、自筆証書遺言と公正証書遺言とに分かれます。

前者は文字通り自分で、後者は公証役場の公証人の関与の元に作成します。

 

従来、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いとして、公正証書は公証役場でも保管されるというものがありましたが、法改正により自筆証書遺言も法務局へ保管を委託することができるようになりました。

ただし、法務局は簡単な形式的チェックを行うのみで遺言内容が適法か、そのままの内容で財産の分配ができるかまだチェックするものではありませんので、その点注意が必要です。

 

遺言執行者

遺言書を作成した場合でも、亡くなった後は諸々の手続が必要となり、また、遺言の内容によっては相続人による実現を期待し難い場合もあります。

そこで、相続人に代わり遺言の内容を実現する役割を担うものとして遺言執行者を選任しておくことがあります。司法書士も執行者となることができます。

多くは遺言書に執行者を記載しますが、記載がない場合は家庭裁判所により選任してもらうことができます。

 

死後事務委任契約

亡くなった後、役所への各種届出、葬儀の手配、医療費・施設利用料の支払い、電気・ガス・水道料金の解約、ネットの解約など、財産承継以外に諸々の手続が必要となります。

これら死後の各種事務につき任せられる遺族等がいない場合、あらかじめ委任する契約を締結しておき、亡くなった後はその人に任せる事ができます。

 

後見(任意後見)

判断能力が衰える不十分となるに至ると家庭裁判所の審判により後見が開始されますが、判断能力が衰える前でも、その事態に備えて後見の内容(後見人を誰にするか、保護、支援の方法)をあらかじめ契約で定めておくことができます。

判断能力があるうちに後見の内容を定めることができるので、法定後見に比して本人の希望が実現しやすくなります。

 

信託(民事信託・家族信託)

信託は、財産を親族ほか第三者に託し、管理運用してもらう制度です。

遺言は自分が亡くなった後に希望の者へ財産を引き継がせる方法ですが、信託は生前のうちに財産を渡して自身の希望する方法により管理運用してもらう点で違いがあります。形式的には名義は信託を受けた人に代わりますが、実質的には預けるということになります。

この信託も、判断能力低下に備えて行われることがあるので、後見と類似した機能を有すると言えます。また、事業承継などにも利用されます。

遺言は一定の場合、相続人の協議によりこれと異なる財産分配がなされることがありますが、信託は契約であり拘束力が強いことから、遺言書作成のほか、更に信託契約も締結することで自身の亡き後も自分の意思を生き続けさせる方策として利用されることがあります。

 

尊厳死宣言書(リビングウィル)

もはや回復の見込みのない病に冒されたときに、むやみな延命治療を施されることを望まない場合、その旨を予め文書で意思表示をしておくことができます。

尊厳死宣言書、延命治療拒否宣言書などと言われます。近時はリビングウィルという呼び方が一般的になってきています。

ただし、遺言書と異なり、このリビングウィルには、法的な効力はありません。

そのため、必ずその意思が実現するとは限りません。

もっとも、きちんと本人の意思が確認できるものであれば、医師もこれを尊重する取扱が増えています。

また、ご家族の同意も重要です。

 

参考
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