相続放棄についても、相続登記同様、自分でできるかという質問やお問い合わせを受けることがあります。

相続放棄の手続を自身で行うこと自体は可能です。

ただ、売り込みのようになってしまいますが、できる限り、司法書士などの専門家に依頼することをお勧めします。

特に、被相続人が亡くなってから3ヶ月を経過した後の相続放棄の場合は、専門家への依頼を強くお勧めします。

確かに、司法書士へ依頼した場合、実費の他に手続報酬が生じます。

3ヶ月以内の放棄で3万円~、3ヶ月を経過した後の放棄の場合は6万円~が大まかな目安になるでしょうか。

いずれにせよ、安くない額です。

相続放棄の手続に必要な書類は、分量だけで言うなら、申述書、回答書5~6枚程度。添付する戸籍も相続登記に比べれば必要な通数は少なくなります。

自分でできるなら自分でやってしまいたいというのも尤もなことです。

しかし、それらの書類をどう書くかで放棄が認められるか変わってきます。

そして、怖いのは、相続放棄の申述は却下されてしまうと、やり直しがきかない点です。

即時抗告という手続はありますが、これが認められるのは難しいのが実情です。

相続放棄の申述が却下されてしまってから、司法書士に依頼してもどうにもなりません。

ただ、状況によって放棄のためのハードルは変わってきますので、これらハードルやリスクを考えて司法書士に依頼するか検討するというのも一つの考え方とも言えます。

 

自分での手続を検討するケース

被相続人の死亡から3ヶ月以内

相続放棄には3ヶ月の期間制限があります。

この3ヶ月の起算点は、正確には、相続開始の原因である事実および自分が法律上の相続人となった事実を知った時とされています。

親が死亡し、子が相続放棄しようとするケースでは、親の死亡が相続開始の原因である事実となり、子は配偶者とともに第1の相続人となりますから、親の死亡を知った時が相続人となった事実を知った時となります。

相続法を知らなかったというのは、法律上の相続人となった事実を知らなかったとは認められません。

被相続人が死亡してから3ヶ月以内であれば、自分が法律上の相続人となった事実を知った時からも3ヶ月以内ですから、通常相続放棄の要件を満たし、比較的問題は少ないと言えます。

もっとも、遺産分割をしてしまうなど、法定単純承認となってしまわないように注意は必要です。

特定の相続人に相続させるための放棄

相続人のうち、特定の相続人に財産を相続させるため、他の相続人が放棄するような場合です。

例えば、父親が亡くなり、その財産を全て長男が相続するという場合に、母親と他の子達が相続放棄をするというような場合です。

仮に、3ヶ月経過などにより相続放棄ができなかったとしても、遺産分割協議により同じく長男が財産を全て相続することは可能、すなわち事実上やり直しがききます。

なお、相続放棄をすると相続人の範囲が変わってくることがあるので、この点について注意が必要です。

専門家に依頼した方がよいケース

相続から3ヶ月を経過している場合

被相続人の死亡を知ってから3ヶ月以内

被相続人の死亡からは3ヶ月を経過しているが、死亡を知ってからは3ヶ月を経過していないケースです。

この場合、相続開始の原因である事実(被相続人の死亡)を知ったときから3ヶ月以内であるため、期間制限内ではあります。

ただ、申述に際しては、3ヶ月を経過してから知った理由を、場合によっては申述書の他に上申書を作成し、それを裏付ける資料とともに裁判所に提出して説明する必要が出てきます。

この説明が相続放棄の要件に沿って適切に行えないと、最悪申述が却下となります。

被相続人の死亡を知ってから3ヶ月経過後

この場合、原則として相続放棄は認められません。

ただ、判例上、「相続 財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合」には例外が認められています。

この場合、上の3ヶ月を経過してから相続の事実を知ったケースよりも、更にハードルが上がります。

この場合も、説明が相続放棄の要件に沿って適切に行えないと、申述が却下となります。

 

上のように、相続から3ヶ月を経過している場合、特に債務の相続を免れるためにする相続放棄については、やはり司法書士などの専門家に依頼していただきたいと思います。

確かに費用は安くはありません。

しかし、その費用を節約しようと自身で手続を行い、申述が却下されて結局何百万の債務を背負い込むこととなったのでは本末転倒ですし、相続人当人については自己責任と割り切るとしても、相続人本人だけではなくその周囲の人達までを巻き込む結果にもなりかねません。

 

相続放棄の期間制限について、もう少し詳しく
 ⇒相続放棄の3ヶ月の期間制限について

 

◇ その他相続手続に関する情報
⇒カテゴリ:相続手続について